やまさんの読書ブログ

やまさんが本の紹介してるブログ、でした。いまもしてます。


読書日記 ブログランキングへ ←暇ならクリックしてね

蜂の物語

ども。

 

全く本を読まなかったので、読書習慣を復活すべく読みました。

 

 

 装丁が良い。装丁だけで買ったところがある。私的本棚に納めたくない本大賞2021ノミネート作品。

今年出てた本だと、『透明性』とか、『田園都市千年王国』とかがノミネートされています。それはともかく。

 

表紙から浮かぶイメージに違わず、宗教のもつ、私から脱け出て大きなものが動いているあの感覚が感じ取れる本でした。直前の文章に主語がないのはタイポじゃないです。直接〈集合意識〉なるワードが出てきてるしな。

蜂の視点で語られたディストピア文学、と帯には書いていました。『侍女の物語』になぞらえて評された驚きの文学!なんて折り込んだところには書いてましたけど、それが驚きに値するのかどうか。

蜂は、人間よりも強く社会的な習性を持つ生き物で、ここがディストピアものにおいていい感じに管理社会のリアリティを増すものとして働いているように感じます。人間が主人公ではえがけないような強い管理社会。

身体的な面においても、蜂は生まれた身体によって運命が決まっています。なんか反抗したり、自由を求めたりしちゃう人間よりも数段純粋なディストピア。可能性がないんだもの。

中世の(と言っても1000年間もありますけど)キリスト教社会は意外と宗教的な統制が取れてたわけではなかった、みたいな話をよく聞きます。キリスト教的な世界観が社会を覆っていたのは勿論として、しかし、異なる価値観をもった蛮族だったりもいれば、その規律にしたがわないちゃらんぽらんな人も多くいました。聖職側にも。社会がしっかりディストピアであるためには、とても高い技術力も必要ながら、なによりみんなが真面目でなければならない、とは私の今年前半の学びです。蜂にはそれが許されません。精神も身体も、生きる意味さえも。

キリスト教の聖句を蜂の用語に変えただけでこれほどまでにも(姉妹に祝福あれ、我らが罪を取り除く者よ…はAgnus Deiですね)宗教が強く社会の紐帯として働いている管理社会がはっきりイメージできるものか、と思いました。

ヘンに人間臭いところが無くて、細かな習性やイベントまでしっかりミツバチの生態に沿っているところが、中途半端な共感を拒んでいて好きです。

一度読んでわかる本は、読む必要がありません。それは、私の中に元々あったことを違う仕方で言っているだけです。それは、別の仕方で異なる本を再読しているにすぎません。それは、共感においても同じだと思います。

共感できない、私の同一性に取り込まれることを阻んでくる本からこそ、視点が際立ち、考えることがたくさん浮かんできます。全く似ていて全く同じでない

 

香りに対する語彙が豊かなのもこの本の面白いところですね。蜜蜂ならば当然なんでしょうけど、私は人間なので。とても官能を刺激されます。